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教授 田中 利男
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システムズ薬理学講座は、当初医学系研究科プロジェクト研究室として平成25年1月1日に設置され、約3年間が経過した。この間、主に小型魚類(ゼブラフィッシュ)をモデル生物として、薬理学、ゲノム医学、情報科学を融合し、薬理学とシステムズ生物学を統合した新しい研究開発領域として、多数の国際的学術誌原著論文などの成果を発信し、全国的なゼブラフィッシュ創薬研究会を組織してきました。平成28年4月1日からは、新しく産学官連携講座システムズ薬理学として、現在までの研究成果や産学官連携の実績を基盤に、さらに多面的な研究領域を展開して、世界のゼブラフィッシュ創薬に貢献する計画である。
システムズ薬理学は、新薬や既存薬の前臨床及び臨床における作用メカニズムを明らかにすることにより、単独治療薬や複合的治療薬により、ヒト疾患の病態生理ネットワークを制御することにより、各個別患者の治療効果を最大にし、かつ毒性を最少化し、精密医療(precision medicine)を実現する。すなわち分子から臨床集団までの次元で、フォワード薬理学とリバース薬理学を統合した複合的科学であり、強力なPK/PDモデルを構築することになる。一方米国NIH白書(2011)の提案は、若干総花的であり具体的な研究戦略としては実践性が乏しいため、現状では定量的システムズ薬理学(Quantitative and Systems Pharmacology)の定義や研究戦略において世界中でばらつきが認められる。そこで、ゼブラフィッシュ創薬は、世界をリードする定量的システムズ薬理学のコアとなる実践的研究戦略の一つとなる。
フォワード薬理学とは、治療薬によるフェノタイプ(薬理作用)から薬物標的分子を同定し、オミクス機構の解明を試みる研究戦略であり、分子生物学以前には創薬の基本であり古典的薬理学と呼ばれていた。ポストゲノムシークエンス時代に突入して、リバース薬理学は、まず特定の病態における創薬ターゲット分子を決定し、そのターゲット分子に作用する治療薬候補を探索し、最終的に薬理作用を確立する薬理学であり、現状の中心的創薬戦略となっている。最近、このリバース薬理学が画期的新薬開発に必ずしも有効ではなく、画期的新薬開発は依然としてフェノタイプスクリーニングにより実現していることが明らかとなり、フォワード薬理学の新しい役割が世界的に注目されている。具体的にはフェノタイプスクリーニングの高速化、定量化、自動化、高度化、精密化が強化されることにより、オミクス解析の急激な発展に対応でき、リバース薬理学と統合的な研究戦略が可能なフォワード薬理学がゼブラフィッシュ創薬において実現しつつある。
従来の創薬はハイスループットが可能なiPS細胞などヒト細胞やロースループットながらin vivoメカニズム解析に活用してきた哺乳類が2大モデル生物でした。最近、ゼブラフィッシュがin vivoハイスループットスクリーニングが実現する数少ない第三のモデル生物として、全く新しい創薬パラダイムを実現し、画期的医薬品やドラッグ・リポジショニングにおいて明確な開発成果を出しております。ゼブラフィッシュ創薬は、単なる安価なマウスや追加的薬理試験ではなく、フォワード薬理学とリバース薬理学を統合したものであり、強力なPK/PDモデルとして、真に21世紀的システムズ薬理学戦略であります。さらにヒトがん細胞のゼブラフィッシュ移植ツールは、次世代フェノミクス個別化医療システムに発展することが期待されています。 |