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2019/07/30

次世代プレシジョンメディシンとゼブラフィッシュ創薬Next Generation Precision Medicine

1.プレシジョンメディシンの急激な発展
 プレシジョンメディシン(Precision Medicine,精密
医療)とは,各患者個人レベルで最適な治療を選択実施
することである.このプレシジョンメディシンを実現す
るために,国際的に多くの挑戦がなされてきた.2015年
1月20日米国前大統領オバマによるPrecision Medicine
Initiativeに関する一般教書演説により,グローバルにも
先端がん個別化医療としてのプレシジョンメディシンが
急速に発展している.現在のプレシジョンメディシンの
主な基盤は患者のオミクス情報であり,薬物治療応答性
を各患者のオミクス情報により予測しようとするもので
ある.しかし,患者オミクス情報と既知の医学医療情報
による個別化医療は統計学的予測に依存するため,その
精度向上には,多数の患者の大量のオミクス情報が不可
欠であり,膨大なコストと時間が不可欠となる.一方,
先端がんプレシジョンメディシンにおいては,患者がん
移植モデル(Patient-Derived Xenograft Model; PDX)
を活用することが国際的に急激な発展を示している.
 米国立がん研究所(NCI)は,大半の薬物スクリーニ
ングにおいてヒトがん細胞株パネル「NCI-60」の使用を
やめることを決定した(1).NCI-60は,NCIが開発した培
養ヒトがん細胞株60種からなる抗がん剤スクリーニング
用パネルで,1990年以降の製薬業界およびアカデミアは,
NCI-60を使って10万種類以上の化合物をスクリーニング
してきた.その結果,この2D細胞培養による薬効スク
リーニングの有効性が認められず,臨床ヒトがん病態へ
の外挿性に疑問が残された.NCIは,世界中の研究者に
大いに利用されてきたこのパネルに変わる新生リポジト
リとして患者がん移植モデル(PDX)を,推進している.
新しいがんモデルは,採取して間もない患者検体に由来
し,詳細な臨床履歴の標識が付けられる患者がん移植モ
デル(PDX)などとなる.すなわち,NCI-60が樹立さ
れた当時と,がんに対する研究者の考え方は現在と大き
く異なっており,NCIは,今後もNCI-60細胞株を研究
者に提供し続ける予定だが,何千世代と時間を経るうち
に遺伝的構成や挙動が変化してきているため,薬物スク
リーニングは最終的に新しい患者がん移植モデル(PDX)
で行うことになる.NCIが現在作ろうとしている創薬
ツールは,数百種類に及ぶ患者がん移植モデル(patientderived
xenograft; PDX)である.これは,ヒト腫瘍の
小塊を,培養よりも人体により近い環境であるマウス体
内に移植したものだ.このマウス体内の腫瘍は,取り出
して他のマウスに再移植することができるため,任意の
腫瘍を複数の個体で調べることも可能だ.NCIは,PDX
に由来する細胞にそれぞれの腫瘍のゲノム塩基配列や遺
伝子発現パターン,およびドナーの治療履歴に関する
データを合わせた上で,配布することにしている.NCI
はまた,より詳細な生化学研究や薬物スクリーニングに
使うために,PDX由来の細胞株を樹立する予定だ.また,
生検が困難な腫瘍のモデル樹立に向け,血中循環腫瘍細
胞(CTC)に由来する培養細胞や異種移植片も作り出そ
うとしている.
 PDXの利用は世界的な流れであり,欧州の16の研究機
関が立ち上げたコンソーシアム「EurOPDX」は,1,500
種類ものPDXを保有している.非営利企業のジャクソン
研究所(米国メイン州バーハーバー)には450種類あり,
さらに100種類を開発中である.製薬業界はその先を行っ
ており,ノバルティス社(スイス・バーゼル)は2015年
に1000種類のPDXを使った薬物スクリーニングについて
報告した(2).
 PDXは,個々の患者の治療方針を決めるためのモデル
としても注目されている.つまり,PDXを持つマウスを,
医師が最も有効な治療計画を決定すための基盤情報とし
て使おうというのだ.ただし,PDX作製には時間がかか
るため,ドナーに利益を還元するところまでいかない場
合が多いのが現実である.むしろノバルティス社のよう
に,将来の患者を助けるためにPDXの大規模コレクショ
ンを研究する方が成果が期待できると考えられている.
 PDXのようなモデルは,旧来の培養細胞や遺伝子操作
したマウスよりも,ヒトがんの遺伝学的複雑さを詳しく
捉えることができる.しかしいくつかの弱点もある.例
えばPDXのほとんどは,正常な免疫応答が起こらない
NOGマウスやNSGマウスなど高度免疫不全マウスで作
製されている.ヒト免疫系のさまざまな面を備えたマウ
スを遺伝子操作で作り出す取り組みも進行中だが,ヒト
免疫系の複雑さを完全に再現したマウスは今のところ存
在しない.


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三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学

三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター