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米国国立がん研究所(NCI)が、過去30年間にわたる大半の薬物スクリーニングにおいて株化ヒトがん細胞パネル「NCI-60」の2D細胞培養による薬効スクリーニングの有効性が認められず(<5%)、数千世代継代されており、臨床検体とは大きく変化しているために、臨床がん病態への外挿性に疑問が残されたため、 2016年からこの2D培養細胞を中止し、患者がん移植マウスモデル(PDXM)が、国際的に急激に発展している。またヨーロッパPDXコンソーシアム(EurOPDX)や米国ジャクソン研究所PDXが、急速に展開している。さらにノバルティス社は、1000種類のPDXによる創薬スクリーニングを、実施した。すなわち、多様なドライバー変異を備えた約1,000の患者由来腫瘍異種移植モデル(PDX)を確立した。これらの患者がん移植マウスモデルでの化合物スクリーニングを実行し、6つの適応症にわたる62の治療に対する集団反応を解析した。その結果、このアプローチの再現性と臨床的有効性の両方を明らかにした。これらの結果は、いくつかの治療薬の臨床的可能性を評価するために、患者がん移植マウスモデル(>80%)が細胞株モデル(<5%)よりも正確な予測能を示すことを示唆している。したがって、この実験的パラダイムは、治療法の前臨床評価を改善し、臨床試験の反応を予測する能力を高めることを、明らかにした。我々も、ヒト前立腺がん細胞(DU145)の2D培養状態におけるトランスクリプトーム(遺伝子発現プロファイル)は、臨床前立腺がん手術検体のトランスクリプトームと大きく異なるが、このヒト前立腺がん細胞(DU145)をゼブラフィッシュ移植後、トランスクリプトームは大きく変化し、臨床前立腺がん手術検体のトランスクリプトームとの類似性を、明らかにしている。これらの結果からも、移植後の微小環境相互作用によりトランスクリプトームレベルでヒト前立腺がん2D培養細胞から臨床検体へ明確にシフトすることから、患者がん移植ゼブラフィッシュモデルの臨床病態外挿性が、期待される。
また従来より、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどのトランスオミクスは、近年解析技術の著しい発展に伴い個別化医療への応用が試みられてきた。2019年6月には我が国でも、がんゲノムプロファイリング検査が保険収載となり、次世代シークエンサーによるがんのゲノム解析を臨床検査として診療に活用することが可能になりました。しかしながら現状ではこれらの検査を受けても遺伝子異常に対応した治療に結びつく割合は、10?20%である。今後この治療薬応答性予測能を向上させるためには、さらなる多数の症例による大規模臨床研究の統計的解析が不可欠である。
PDXマウスモデルは、旧来の2D培養細胞よりも、ヒトがんの遺伝学的複雑さを詳しく捉えることができる。しかしいくつかの課題も残されている。
例えばPDXマウスモデルは、正常な免疫応答が起こらないNOGマウスやNSGマウスなど高度免疫不全マウスで作製されている。ヒト免疫系のさまざまな面を備えたマウスを遺伝子操作で作り出す取り組みも進行中だが、ヒト免疫系の複雑さを完全に再現したヒト化マウスは今のところ存在しない。
また、PDXマウスモデルによるプレシジョンメディシンには最初の移植後個体数を確保するため、約1年間3回の植え継ぎに時間がかかるため、ドナーに利益を還元するところまでいかないのが現実である。ノバルティス社などの場合、将来の患者を助けるためにPDXマウスモデルの大規模コレクション研究が、期待できると考えられている。
現在世界では高度免疫不全マウスによる患者がん移植マウスモデル(PDXM)が圧倒的に活用されているが、これらの課題があり、正常免疫であるゼブラフィッシュによる新しい患者がん移植ゼブラフィッシュモデル(PDXZ)への展開を、我々は確立している。すなわち高度免疫不全マウスと比較して、免疫システムが未熟な受精後36時間以内に正常ゼブラフィッシュへの患者がん移植の圧倒的な生着率の高さや生着スピードが速いこと、移植に必要な患者がん細胞が100個以下で、1臨床検体で100匹以上の初代移植ゼブラフィッシュが可能であり、2日間で薬効定量解析できるなどの利点から、我々をはじめ世界で患者がん検体のゼブラフィッシュ移植モデルが展開されている。その結果、PDXZにおける薬物感受性と術後臨床薬物応答性に、明確な相関が認められる。自験例では、膵がん/gemcitabine,5-FU、海外では大腸癌/FOLFOX、膵管腺がん/gemcitabine, oxalipratin, FOLFOXIRI、乳がん/olaparibなどが明らかにされている。これらヒト臨床がん細胞のゼブラフィッシュ移植システム(PDXZ)は、PDXMより圧倒的に迅速な治療薬感受性試験が実現しており、抗がん剤選択のための臨床体外診断システムとして、次世代個別化医療ツールになることを、我々は少数例の膵がんにおいて明らかにしている。臨床がん検体移植ゼブラフィッシュによる個別化医療は、各患者がん検体のフェノミクス定量解析結果をその患者の治療薬選択にリアルタイムで活用することができ、真の次世代プレシジョンメディシンであるといえよう。さらに、独自の透明化ゼブラフィッシュ(MieKomachiシリーズ)などをin vivoイメージングに活用することにより、リアルタイムに移植がん細胞と微小環境の相互作用や治療薬抵抗性機構の解析が実現する。例えば、ヒト前立腺がん移植透明ゼブラフィッシュ解析により、腫瘍血管新生におけるzinc finger MYND-type containing 8遺伝子の重要な役割を新しく見出している。以上、新しい医学研究モデル動物であるゼブラフィッシュによるスクリーニングは、次世代プレシジョンメディシンや創薬などにおいて、トランスレーショナル医学研究開発ツールとしてこの21世紀に中心的役割を果たすことが期待されている。