2013/02/18
薬理学(Pharmacology)
薬理学(pharmacology)は、生物系(biological system)と化学物質(chemical substance)の選択的相互作用(selective interaction)を研究し、薬物療法の基礎となる科学である。生物系は、集団、個体、器官、細胞、分子、遺伝子、オミックスのレベルで解析し、化学物質は、生物系と選択的相互作用を持つものが対象となる。さらに、分子生物学の発展とともに、分子薬理学(molecular pharmacology)や逆薬理学(reverse pharmacology)が確立されつつある。すなわち、薬理作用から標的分子を解明するだけではなく、逆に標的分子から新しい薬物を発見する薬理学が展開されている。また、ゲノムサイエンスの進展に伴い、薬理ゲノミクス(pharmacogenomics,ゲノム薬理学)が構築されつつある。すなわち、薬理作用をゲノムワイドに解析し、新しい治療薬の標的分子の発見と個体差を考慮したテーラーメイド薬物治療学の確立を目的とする科学であるシステムズ薬理学に発展しようとしている。
薬理学の講義においては、主に薬物療法のゴールデンゴールである「right drug to right patient at right time by right dose」の根本原理について個体から遺伝子までの薬理ゲノミクスの観点から解説し、新しい薬物治療学の全体像をオミックスレベルでのシステムズ薬理学的理解に到達することを目的にする。
さらに、現在なお治療が困難な疾患に対する、新しい薬物治療学への試みを提示する。そのために、従来より多くの治療薬の標的システムである、細胞シグナリングを中心に具体例を解説し、理解を促進する。
参考図書NEW薬理学(南江堂,2011年,改訂第6版)
教員名
教授田中利男
講師西村有平
助教島田康人‘
(薬理学教室インターネットホームページhttp://zqsp-mie-u.org/pgx/)
講義内容
1)分子細胞薬理学入門
古典薬理学から細胞薬理学、分子薬理学への歴史的発展と薬理学の役割
2)薬理ゲノミクス入門
薬理ゲノミクスの誕生と展開
3)細胞膜シグナリングと臨床薬物治療学
細胞膜受容体シグナリングの全体像と治療薬の作用機構
4)細胞内シグナリングと臨床薬物治療学
セカンドメッセンジャーシステムと薬物の作用機序
5)遺伝子発現機構と薬物治療機構
遺伝子発現シグナリング機構と治療薬の作用機序
6)細胞間シグナリングと臨床薬物治療学
細胞間情報伝達物質の生合成、代謝、輸送、分泌と治療薬
7)薬物動態学と薬理遺伝学
薬物代謝学と臨床薬物治療学
8)毒科学とトキシコゲノミクス
薬物の安全性/副作用や中毒学のゲノムサイエンス
9)中枢神経作用薬の薬理学
抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬等の作用機序
10)末梢神経作用薬の薬理学
アドレナリン系とコリン系の薬物作用機構
11)抗感染症薬の薬理学
抗生物質、抗細菌薬、抗結核菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬などの作用機序
12)抗腫瘍薬の薬理学
分子標的治療薬、アルキル化薬、代謝拮抗薬、微小管阻害薬などの作用機構
13)内分泌/代謝の薬理学
副腎皮質ホルモン、糖尿病治療薬、脂質異常症治療薬などの作用機序
14)抗炎症薬、鎮痛解熱薬、痛風治療薬の薬理学
非ステロイド性抗炎症薬、抗リウマチ薬、抗アレルギー薬の作用機序
15)免疫薬理学
免疫抑制薬と免疫増強薬の作用機構
1 6 ) 循環薬理学、
心不全治療薬、抗狭心症薬、高血圧治療薬などの作用機序
17)腎、尿路薬理学
利尿薬の作用機構
18)血液薬理学
貧血治療薬、抗血栓薬、止血薬などの作用機序
19)呼吸器薬理学
気管支喘息治療薬、気管支拡張薬、鎮咳薬などの作用機構
20)消化器薬理学
消化性潰瘍治療薬、胃腸運動改善薬、炎症性腸疾患治療薬などの作用機序
講座の研究内容
教室では以下のプロジェクトを行っているので、関心のある学生諸君は、新医学院生(修士・博士課程)、研究生として参加されることを歓迎する。
医学の中心が治療学へシフトしつつある現在、21世紀に大きく展開する新しい研究領域である薬理ゲノミクスを、教室では世界に先駆けて構築しつつある(参考図書「21世紀の創薬科学」1998年共立出版」。
まず現在国際的に使用されている治療薬の多くは、いまだ真の作用機序が不明のままであることに注目し、その作用機序をオミックステクノロジーで解析することにより、新しい治療学を構築する。すなわち、薬物のゲノムワイドな作用機序を解明するために主に包括的遺伝子発現プロフィール解析(マイクロアレイ(DNAチップ)、次世代DNAシークエンシング、プ、ロテオミクス)により、新しい治療薬標的分子(治療遺伝子)の探索研究を総合的に実施している(参考図書「ゲノム機能研究プロトコール」羊土社,2000年・「先端バイオ研究の進めかた」羊土社,2001年)。さらに薬理ゲノミクスは、薬物による治療過程のプロテオーム機構を、我々に明確に示し、全く新しい薬物治療学の確立を可能にすると思われる(「ゲノム研究実験ハンドブック」羊土社,2004年)。対象となる疾患病態は、心不全、メタボリックシンドローム、血管障害、動脈硬化症、脳血管箪縮、癌の転移と浸潤などである。これらの難治性疾患に対する新しい薬物治療学研究の確立が最終目標となる(「最先端創薬」蛋白質核酸酵素45巻6号;805-810,2000年、創薬サイエンスのすすめ,174-185,共立出版,2002年)。
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