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ゲノム創薬フォーラムの最新動向
ゲノム創薬フォーラム(http://www.genome.ne.jp/gdd/index.html)は、1997年野口照久先生(当時(株) へリックス研究所代表取締役社長、元山之内製薬 (株) 代表取締役副社長)を代表に、設立されました。当時ヒトゲノムの塩基配列すべてが、21世紀初頭に解読されようとしている状況にあり、米国TIGR社やWellcome Trust社などの動きを見ると、2003年までにはヒトの全遺伝子の配列が明らかにされそうな勢いでありました。さらにヒトのみならず、今後1000余種の生物のゲノムも解析されつつあり、ヒトを含む多数の生物種間での遺伝子配列の相同性が明らかにされる日も近いと考えられていました。その結果、得られている情報と科学は塩基配列というゲノムの構造に関する構造ゲノミクス(structural genomics)だけではなく、個々の遺伝子の機能に関する機能ゲノミクス(functional genomics)も質的・量的に着実に拡大し、世界中のゲノム情報は驚異的な速度で蓄積しつつありました。膨大な情報を前にして、それらを整理し、組織し、統合し、活用する科学である生物情報学(bioinformatics) が生まれるのは当然であり、これらすべてはゲノム科学(genomics)と総称されています。
そこでゲノム創薬フォーラムは当初から、ゲノム科学の目的に注目し、医薬品を作り出す創薬を中心に考えていました。例えば、新しい受容体を誰かが発見すれば、それを創薬研究者たちは競って標的としました。現在も有効なこのアプローチを続けるうち、優れた医薬品を発見するためには、まず標的自身が新しく、ユニークでなければならないことは、よく知られていました。これを可能にする創薬における画期的変化がゲノム科学をベースにした標的の発見とそのダイナミックな活用であり、これをゲノム創薬研究プロセス(Genomic Drug Discovery Process) として提案し、翌年の1998年には第一回シンポジウムを、東京渋谷の薬学会館で開催しました。日本におけるゲノム創薬科学の誕生であります。ゲノムを創薬に結びつける動きは、アカデミアを巻きこんで欧米の製薬企業やベンチャーの間で著しい発展状況にありました。一方、ゲノム創薬科学がわが国の医薬品開発において根付いたとは言い難いと思われました。とりわけ遅れているのは、医薬品開発に有効な大規模かつ組織的なヒトゲノム情報データベースの構築とbioinformaticsを駆使した遺伝子情報の解析であります。企業によるヒトゲノム情報の活用も、大勢としては、欧米の諸国に比し、未熟であり、このような状況のなかで『ゲノム創薬フォーラム』は、創薬研究プロセス全般にわたり、何をどのようになすべきかをともに考え、各企業において最新のゲノム科学を取り込んだ創薬研究を強力に支援するためのシステム作り、ひいては日本におけるゲノム創薬科学の定着と発展に寄与することを目標としました。その結果、全国の企業やアカデミアからの多数の参加がありました。当時我が国には、通産省系の(株) へリックス研究所と厚生省系の(株)ジェノックス創薬研究所(1996年―2003年)が、ゲノム創薬の国家プロジェクトでした。田中は、この(株)ジェノックス創薬研究所に参画していたことから、ゲノム創薬フォーラムには、設立時から参加し、現在評議委員会議長としてお世話しています。
その後、ゲノム創薬は、国際的に急激な展開を示し、多くの国内外の製薬企業においては、必要不可欠な基盤技術として確立されています。そこで、その中で最も発展が著しい疾患オミックスと創薬について、オーガナイザーは、田中、永島廉平((株)MCBI・取締役)、
辻本豪三(京都大学大学院薬学研究科・教授)、増保安彦(東京理科大学薬学部・教授)で、第12回シンポジウム「疾患オミックスとゲノム創薬:Diseasomeを基盤とした次世代創薬戦略」を,開催した。
さらに、この疾患オミックス情報を創薬ターゲットに繋げる最新の創薬戦略について「最近の分子標的療法の動向と標的同定のためのパスウェイ解析」をテーマに、2010年7月5日(月)日本薬学会館において、オーガナイザーは、田中、林崎 良英(理化学研究所 オミックス基盤研究領域長)、北村 俊雄(東京大学医科学研究所 教授)で、開催しました。主な講演は次のように民間やアカデミアから最先端の報告がなされました。
川原 弘三(株式会社ワールドフュージョン 代表取締役社長)「新たな創薬ターゲット経路網探索と化合物構造の融合」
住谷 知明(プレシジョン・システムサイエンス 執行役員事業開発担当部長)「RNA のデジタルカウンティング技術 − 次世代発現解析の幕開け」
宮野 悟(東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 教授)「大規模データ解析とシミュレーションによる生命システムのモデル化」
矢守 隆夫(財団法人癌研究会・癌化学療法センター分子薬理部 部長)「がん細胞パネルによる化合物の分子標的予測法(CANCER CELL INFORMATICS):
その方法論と分子標的薬開発への応用」
等 泰道(Head of Oncology Research/Metabolic disease Research at Rigel Inc.)「Identification and Development of Small Molecules that Mimic the Effect of Adiponectin」
後藤 俊男(理化学研究所・創薬医療技術基盤プログラム
 プログラムディレクター)「タクロリムス(FK506)の発見と開発について」
これらの講演の中でも注目すべき点は、後藤俊男先生が旧藤沢薬品でタクロリムスを発見するプロセスで、疾患モデルのスクリーニングを活用しており、フェノタイプアッセイの重要性についてオミックス創薬において改めて強調された点であります。これら10年以上の歴史のあるゲノム創薬フォーラムは、現在大きな変革点を迎えつつあり、疾患オミッックスからの創薬戦略に本格的に突入している。また、代表も共同代表として竹中登一先生(東大院薬学系研究科特任教授、アステラス製薬株式会社代表取締役会長)と新井賢一先生(東大名誉教授、東大先端科学技術研究センターシステム生物医学ラボラトリー 特任教授)へ、世代交替がなされました。今後ゲノム創薬フォーラムは、ようやく当初からの目的である疾患オミックスと創薬ターゲットバリデーションに具体的焦点を当てるとともに、製薬に加え補完代替医学への展開やアカデミアにおける研究教育の構築が開始されており、この新しい研究領域における本学の貢献が期待されています。
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