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2020/01/01

次世代プレシジョンメディシン元年

あけましておめでとうございます。
2020年は、いよいよ次世代プレシジョンメディシン元年となり、
患者がん移植ゼブラフィッシュモデルが、本格的に展開する年になります。

米国国立がん研究所(NCI)が、過去30年間、大半の薬物スクリーニングにおいてヒトがん細胞株パネル「NCI-60」を使用してきたが、この2D細胞培養による薬効スクリーニングの有効性が認められず、臨床ヒトがん病態への外挿性に疑問が残されたため、 2016年から中止し、患者がん移植(PDX)マウスモデルが、国際的に急激に発展している(Nature (2016-02-25)。またヨーロッパPDXコンソーシアム(EurOPDX)や米国ジャクソン研究所PDXが、急速に展開している。さらにノバルティス社は、1000種類のPDXによる創薬スクリーニングを、実施した。すなわち、多様なドライバー変異を備えた約1,000の患者由来腫瘍異種移植モデル(PDX)を確立し、遺伝子型と薬物反応、および確立された耐性メカニズムとの関連を特定することにより、このアプローチの再現性と臨床的有効性の両方を明らかにした。これらの結果は、いくつかの治療法の臨床的可能性を評価するために、患者がん移植マウスモデルが細胞株モデルよりも正確な予測能を示す可能性があることを示唆しています。したがって、この実験的パラダイムは、治療法の前臨床評価を改善し、臨床試験の反応を予測する能力を高めることを、明らかにしました。しかしながら、現在までは高度免疫不全マウスによる臨床移植癌の技術的な限界や高コスト(1症例$25,500)からフェノミクス個別化医療は実現してこなかった。
従来より、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどのオミクスは、
近年解析技術の著しい発展に伴い個別化医療への応用が試みられてきたが、
その治療薬応答性予測能を向上させるためには、多数の症例による大規模臨床研究の統計的解析が不可欠である。

PDXマウスモデルは、旧来の2D培養細胞よりも、ヒトがんの遺伝学的複雑さを詳しく捉えることができる。しかしいくつかの弱点もある。例えばPDXマウスモデルは、正常な免疫応答が起こらないNOGマウスやNSGマウスなど高度免疫不全マウスで作製されている。ヒト免疫系のさまざまな面を備えたマウスを遺伝子操作で作り出す取り組みも進行中だが、ヒト免疫系の複雑さを完全に再現したマウスは今のところ存在しない。
すなわち、PDXマウスモデルによるプレシジョンメディシンには最初の移植後、約1年間の時間がかかるため、ドナーに利益を還元するところまでいかない場合が多いのが現実である。すでに述べたように、ノバルティス社の場合、将来の患者を助けるためにPDXマウスモデルの大規模コレクションを研究する方が成果が期待できると考えられている。
現在世界では高度免疫不全マウスによる患者がん移植マウスモデル(PDX mouse model)が圧倒的に活用されているが、いくつかの課題があり、正常免疫であるゼブラフィッシュによる新しい患者がん移植モデル動物(PDX zebrafish model)への展開を、我々は確立している。すなわち高度免疫不全マウスと比較して、免疫システムが未熟な受精後36時間以内に正常ゼブラフィッシュへの患者がん移植の圧倒的な生着率の高さや生着スピードの速いこと、移植に必要なヒトがん細胞が100個以下であり、2日間で薬効が定量解析できるなどの利点から、我々をはじめ世界で患者がん検体のゼブラフィッシュ移植モデルが確立されている。これらヒト臨床がん細胞のゼブラフィッシュ移植システム(PDX zebrafish model)は、PDX mouse modelより圧倒的に迅速な治療薬感受性試験が実現しており、抗がん剤選択のための臨床体外診断システムとして、次世代個別化医療ツールになることを少数例ではあるが膵がんにおいて明らかにしている。臨床がん検体移植ゼブラフィッシュによる個別化医療は、各患者がん検体のフェノミクス解析結果をその患者の治療薬選択にリアルタイムで活用することができ、真の次世代プレシジョンメディシンであるといえよう。
以上、新しい医学研究モデル動物であるゼブラフィッシュによるスクリーニングは、次世代プレシジョンメディシンや創薬などにおいて、トランスレーショナル医学研究開発ツールとしてこの21世紀に中心的役割を果たすことが、期待されている。


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三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学

三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター