TOPICS

2018/06/07
Zebrafish-Based Drug Discovery and Systems Pharmacology

2017/12/01
フエノミクス個別化医療を実現

2017/11/25
Global Development in emerging zebrafish-based “alternative” methods

2017/11/25
ICH and 3Rs with zebrafish-based alternative methos

2017/11/23
171123日本動物実験代替法学会第 30 回大会シンポジウム6

》ゼブラフィッシュ創薬への道程

                     
2016/08/10

ゼブラフィッシュ創薬への道程
田中利男
三重大学大学院医学系研究科産学官連携講座システムズ薬理学
ジグムント・フロイトとの出会いと訣別
少年期には、時の巨人に憧れるものでありますが、20世紀の巨人と言われたジグムント・
フロイトにはなぜか早くから惹き付けられることになりました。動機は極めて現実的で知
人にいわゆる神経症がいたり、森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」を愛読していたことなど
によります。しかし青年期にもこの憧憬は持続的で、池見酉次郎九大心療内科教授の
「続・心療内科(1973年)」には、稲妻が走りました。そこで田舎のミーハー
として早速池見先生へ手紙を書き、医学部学生時代の夏休みは九大心療内科で臨床
研修を受けることになりました。池見先生は、古澤平作日本精神分析学会初代会長
に教育分析を受けるため福岡から東京に通ったことを自慢そうに語っておられま
した。そして当時約10人いた同期のすべてが池見先生の教育分析を受けることに
なります。その頃我が国では、土居健郎、小此木啓吾、西園昌久らが日本精神分析
学会創立時のメンバーであり正統派の精神分析医とされ、池見先生は精神科医であ
る彼らと距離を取っておられました。すなわち、池見先生は初期の米国心身医学が
主な基盤を精神分析学としたことから、当時は精神分析学を核に心療内科学を構築
しようとされましたが、すでに心身症治療法としての精神分析学は不充分であるこ
とに気づかれ、自律訓練法、交流分析、行動療法など、ありとあらゆる治療法を取
り入れ、これらすべての集学的治療戦略を、総合医学的治療としておられました。
ジグムント・フロイトにより創始された精神分析学は、20世紀前半に世界で勃興し、心身
医学や精神医学にとどまらず人文、社会、文化、芸術まで広範に深く浸透していきました。しか
し、20世紀後半は国際的にもあらゆる観点から激しく批判されました。特に治療学としては未
だに産後うつ病のみのエビデンスしか無く、医療裁判では敗北し、科学哲学者カール・ポパーは、
反証可能性がないことを理由に、精神分析学は「真の科学」ではなく「擬似科学」であるとしま
した。
精神分析学の反証可能性が困難な理由としては、現代の最先端脳科学といえどもまだ未熟であり
実験医学的に精神分析学の基盤科学になることは難しいと思われます。そのことから、ジグム
ント・フロイト生存中から多数の分派ができ、アドラー、ユング、ライヒなどが新しい巨
人として彼らの思想が生き残っています。一方フロイトへ還れと叫んだフランスの精神分
析医ジャック・ラカンは、世界精神分析協会等国際的再組織化に成功しつつありましたが、
彼の死後は内部抗争と分裂に明け暮れていきます。今になって思うことは、フロイトが反
証可能性が無い病因論を治療標的として固着したことや現象学的方法論に終始したことも、
治療学としての精神分析学のポテンシャルの低さにつながったのではないかと思われます。
また精神分析学が無力と思われた統合失調症に対してクロルプロマジンの再発見に始まる
薬物療法の隆盛は、世界的潮流となりました。
そしてついに、1978年心身医学を通して学んだジグムント・フロイトと訣別し、分子
薬理学へ転向することになりました。一方この転向により京都府医大卒のフォークシンガ
ーである北山修に対して2度の敗北を帰したしたことになります。彼はすでに医学部学生
の頃にフォークグループ「ザ・フォーク・クルセダーズ」メンバーとして「帰ってきたヨ
ッパライ」、「戦争を知らない子どもたち」、「あの素晴らしい愛をもう一度」、「白い色は恋
人の色」、「さらば恋人」などのヒットを飛ばし青年の夢を早々と実現した後2年間のロン
ドン精神医学研修後、1980年北山医院を開業して臨床に従事し、1994年九大教授
になりました。さらに小生がついに理解できなかったイギリスの小児精神分析医ドナル
ド・ウィニコット研究の第一人者になりました。1980年以降米国での凋落著しいこの
領域の日本精神分析学会長を、彼が2006年—2009年に務めていることは見事であり、
次の2009年−2012年日本精神分析学会長が、九大心療内科同期の松木邦裕京大教授
であることから、自分が初志を貫くこと無くこの領域の研究戦略に早々と見切りをつけた
のは、恥ずべきことではないかと思われます。
ゲノム創薬とリバース薬理学
精神分析学の治療学としての脆弱さによりジグムント・フロイトと訣別した1978年頃
は、分子生物学が医学を席巻し疾風怒濤の勢いでありました。我が国でも、同年日本分子
生物学会が結成されています。この頃は古典的な薬理学であるフォワード薬理学からリバ
ース薬理学へのパラダイムシフトが、国際的にも勃興し新しい潮流が形成さていました。
すなわち従来のフォワード薬理学は薬物により薬理作用を探索したのち標的分子を発見す
るプロセスを中心にしてきました。これはあたかもメンデルが形質の安定した22品種の
エンドウ豆を選び、交配と形質から遺伝子を予言した過程と似ています。そこで、当時生
化学的手法により分子薬理学を展開しておられた日高弘義教授が三重大学へ1978年に
赴任されたのを機に合流することになりました。1988年に教室を主宰する頃には、早
くもポストゲノムシークエンス時代に突入し、このヒトゲノムに必ず新しい創薬ターゲッ
トが内在しているので、その分子機能探索研究が世界的にも急激に広範になされてきまし
た。その果実としての成果は一部の分子標的薬として実りつつあります。しかしこのリバ
ース薬理学の現実は厳しい状況であり、現在なお治療が困難な難治性疾患(アンメットメ
ディカルニーズ)に対する新しい治療薬開発は、特に21世紀に入ってから困難を極めて
きました。たとえば、世界の2008年から2010年における臨床試験第二相の成功率
はわずか18%であり、国際的にも重大で深刻な問題として受け止められています。特に
問題視されたのは、これら失敗原因の多くが、不充分な薬効であることから、従来のリバ
ース薬理学がその役割を果たしていないことが、明白になりました。このリバース薬理学
における危機的状況に対して米国 NIH が、この困難を解決するソルーションとして201
1年10月に、世界にインパクトを与えた定量的システムズ薬理学(Quantitative and
Systems Pharmacology)白書を、報告しました。現在のリバース薬理学における困難性を打
破するために提案された定量的システムズ薬理学は、薬理学、ゲノム医学、情報科学を融
合し、薬理学とシステムズ生物学を統合した新しい研究開発戦略であります。定量的シス
テムズ薬理学は、新薬や既存薬の前臨床及び臨床における作用メカニズムを明らかにする
ことにより、単独治療薬や複合的治療薬が、ヒト疾患の病態生理ネットワークを制御する
ことにより、各個別患者の治療効果を最大にし、かつ毒性を最少化し、精密医療(precision
medicine)を実現することになります。すなわち分子から臨床集団までの次元で、フォワー
ド薬理学とリバース薬理学を統合した複合的科学であり、強力な PK/PD モデルを構築する
ことです。フォワード薬理学とは、治療薬によるフェノタイプ(薬理作用)から薬物標的
分子を同定し、オミクス機構の解明を試みる研究戦略であり、分子生物学以前には創薬の
基本であり古典的薬理学と呼ばれていました。ポストゲノムシークエンス時代に突入して、
リバース薬理学は、まず特定の病態における創薬ターゲット分子を決定し、そのターゲッ
ト分子に作用する治療薬候補を探索し、最終的に薬理作用を確立する薬理学であり、今ま
で中心的創薬戦略となっています。最近、このリバース薬理学が画期的新薬開発に必ずし
も有効ではなく、画期的新薬開発は依然としてフェノタイプスクリーニングにより実現し
ていることが明らかとなり、フォワード薬理学の新しい役割が世界的に注目されています。
具体的にはフェノタイプスクリーニングの高速化、定量化、自動化、高度化、精密化が強
化されることにより、オミクス解析の急激な発展に対応でき、リバース薬理学と統合的な
研究戦略が可能なフェノミクス薬理学が実現しつつあります。さらにゼブラフィッシュ創
薬は、定量的システムズ薬理学のコアとなる実践的研究戦略の一つといえます。
現在までの創薬はハイスループットが可能なヒト細胞(iPS 細胞や ES 細胞を含む)やロース
ループットながら深い in vivo メカニズム解析に活用してきた哺乳類モデルが2大モデル
生物でした。ここで、ゼブラフィッシュは in vivo ハイスループットスクリーニングが実
現する数少ない第三のモデル生物であり、全く新しいパラダイムを実現することになりま
す。すなわち、モデル生物としてメンデルがエンドウ豆により遺伝学を、デルブリュック
がバクテリオファージにより分子生物学を創成したように、ゼブラフィッシュによりシス
テムズ薬理学が構築されると思われます。
ゼブラフィッシュ創薬とシステムズ薬理学
ゼブラフィッシュの医学研究活用は、PubMedによると1955年から記録されていますが、2
015年には2516報となり今後さらに論文が増加すると思われます。これらの研究成
果は、確実にゼブラフィッシュ創薬に不可欠な基盤情報を拡充しており、ゼブラフィッシ
ュ創薬推進エンジンとして貢献しております。実際ヨーロッパでは2008年からはラッ
トを抜いて、ゼブラフィッシュがマウスの次に頻用されているモデル生物となりました。
さらに、世界中で多数のゼブラフィッシュ創薬ベンチャーが創業しております。また、国
際的メガファーマが、薬効・安全性研究でゼブラフィッシュを積極的に活用しております。
まだ10年未満の歴史しか無いゼブラフィッシュフェノタイプスクリーニングが著効した
成功例として、画期的医薬品(First-in-Class)2例とドラッグ・リポジショニング(Drug
Repositioning, Drug Reprofiling, Drug Repurposing)2例が知られています。
そこで我々は、2015年ゼブラフィッシュ創薬に関するシンポジウムを多数組織しまし
た。まず3月18日第88回日本薬理学会年会(名古屋)シンポジウム6;ゼブラフィッ
シュ創薬の新しい展開、3月27日日本薬学会第135年会(神戸)シンポジウム S35;ゼ
ブラフィッシュを用いた病態解明と創薬への新展開、5月17日第69回日本栄養・食糧
学会(横浜)シンポジウム3;ゼブラフィッシュによる次世代栄養学の新しい展開、5月
29日第62回日本実験動物学会(京都)総会ワークショップ W2;まるごとゼブラー実験
動物としてのゼブラフィッシュ、7月1日第42回日本毒性学会(金沢)シンポジウム;
ゼブラフィッシュ研究の最前線などを連続して組織してきたので、最終的に11月6日三
重大学 環境情報科学館において、第1回ゼブラフィッシュ創薬研究会(ZDD2015 in Mie)
を、主催することになりました。この研究会には、駒田学長に開会のご挨拶、緒方医学系
研究科長に情報交換会ご挨拶をいただき、参加者総数183名となり、三重大学 環境情報
科学館1階メイン会場で収まらず3階でリアルタイム放映も実現し、三重大学メディカル
ゼブラフィッシュ研究センター施設見学会や情報交換会も多数の参加者で溢れました。
ゼブラフィッシュ創薬のポテンシャルについて、現在 iPS 細胞とともに多くのアカデミア
や製薬などが関心を持ち始めています。しかし、現状の未熟なゼブラフィッシュ創薬テク
ノロジーでは現状を打破するパワーが不足しています。そこで、オールジャパンで民間の
力を結集して日本発のイノベーションを成し遂げるために小型魚類産業協会(SFIA; Small
Fish Industry Association)を、2016年に設立し、現在多くのアカデミアと民間企業
が結集しています。今までのゲノム敗戦に加え iPS 戦略でも遅れだしている我が国の第三
の戦略となることが期待されています。

関連リンク

三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター

ゼブラフィッシュ創薬研究所