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》タクリンによる有毛細胞保護作用の分子機構解析

                     
2014/06/20

タクリンによる有毛細胞保護作用の分子機構解析

笹川翔太1、西村有平1,2,3,4,5、近藤剛規1、梅本紀子1,3、川端美湖1、村上宗一郎1、張貝貝1、島田康人1,2,3,4,5、田中利男1,2,3,4,5

1三重大学大学院医学系研究科 薬理ゲノミクス(三重大・院・医・薬理ゲノミクス)
2三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター(三重大・メディカルゼブラフィッシュ研究セ)
3三重大学大学院医学系研究科 システムズ薬理学(三重大・院・医・システムズ薬理)
4三重大学新産業創成研究拠点 オミックス医学研究室(三重大・新産業創成研究拠点・オミックス医)
5三重大学生命科学研究支援センター バイオインフォマティクス(三重大・生命科学研究支援セ・バイオインフォ)

[背景・目的] 人間が聴覚で取り込む情報量の割合は視力に次いで多く、その障害は社会生活において大きな影響を及ぼす。有毛細胞は、外耳道や鼓膜を通って伝わる空気の振動を電気的信号に変換し、聴神経を介して大脳の聴覚中枢に信号を送っている。有毛細胞の異常は難聴の主要な原因となっており、有毛細胞障害を保護する薬物の開発と、その分子機構の解析は極めて重要な社会的意義を有する。本研究の目的は、アミノグリコシド系抗生物質による有毛細胞細胞障害に対する、タクリンの有毛細胞保護作用の分子機構を解析することである
[方法] ゼブラフィッシュの有毛細胞は、蛍光色素YoPro1を用いて可視化することができる。本研究では、ネオマイシンとタクリンを30分間ゼブラフィッシュに共投与した後、YoPro1を用いた蛍光ライブイメージングにより有毛細胞の蛍光量を定量的に解析した。また、タクリンの有毛細胞保護作用の分子機構を解明する目的でトランスクリプトーム解析を行った。さらに、トランスクリプトーム解析から見出された候補遺伝子の機能を解析するために、アンチセンスモルフォリノを用いた遺伝子ノックダウン実験を行った。
[結果] ネオマイシンを投与したゼブラフィッシュの有毛細胞の蛍光シグナルはコントロールに比べて有意に低下した。一方、タクリンとネオマイシンを同時に投与したゼブラフィッシュの有毛細胞の蛍光シグナルは、ネオマイシン単独投与に比べて、有意に蛍光シグナルが強くなった。このことはタクリンがネオマイシンの有毛細胞障害に対して保護的に作用することを示唆している。トランスクリプトーム解析により、ネオマイシン単独投与とコントロールを比較した場合、ネオマイシンにより発現が低下する4遺伝子と、増加する34遺伝子を見出した。一方、ネオマイシン単独投与と、タクリンとネオマイシンを同時投与した場合の比較では、ネオマイシンにより発現が低下する323遺伝子と、増加する217遺伝子を見出した。これらの発現変動遺伝子の重複を調べたところ、ネオマイシンにより発現が増加し、タクリンによりその発現増加が抑制される3遺伝子を同定した。これら3遺伝子のうちのひとつはtumor necrosis factor (TNF)であった。TNFをノックダウンしたゼブラフィッシュではネオマイシンによる有毛細胞障害が有意に軽減されていた。
[考察] タクリンはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であり、局所におけるアセチルコリン濃度の増加と、ニコチン性アセチルコリン受容体の活性化を介して、TNFの発現を抑制する可能性が示唆された。現在、タクリンの有毛細胞保護作用に関与するニコチン性アセチルコリン受容体サブタイプの解析を進めている。

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