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》21世紀の薬理ゲノミクス教室

                     
2014/12/18

1. 薬理ゲノミクス教室の創生
20世紀後半、薬理学において大きな変化が認められたのは、分子生物学を基盤にし、薬物の作用機構を分子レベルで解析し始めた分子薬理学の時代でありました。21世紀の薬理学に起こった最大のインパクトは、やはりヒトゲノムシークエンス解読であります。2001年2月15日英国科学雑誌Natureに、米、英、仏、独、中、日の 6 カ国 20 研究センターから構成される「国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアム」は、1991年からのヒトゲノムドラフトシーケンスの解析を終え、その成果を報告しました。ヒトの遺伝設計図であるヒトゲノムの全解読は、医学研究戦略において根本からパラダイムシフトを起こし、長い医学の歴史に残るものです。その後、完全・高品質なゲノムの完成に向けて作業が継続され、2003年4月14日には完成版が公開されました。そこにはヒトの全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さで含まれるとされています。これは1953年のDNAの二重らせん構造の発見から50周年となる2003年に完了したことになる。この研究成果は、医学全般に大きく深い影響力を持つことになり、特にゲノム創薬への大きなインパクトとなりました。さらに21世紀に突入して、ゲノムサイエンスを基礎に、薬理学は薬物作用機構を生体レベルで包括的にゲノムワイドな解析が可能になり、パラダイムシフトが出現しました。すなわち薬理ゲノミクス時代の到来であります。この変化が、薬理学においていかなる変化を来したかを一言で表現すると、分子薬理学のパスウエイ解析から薬理ゲノミクスのネットワーク解析へのシフトであります。分子薬理学は、薬物と薬物受容体の分子間相互作用とそのシグナル伝達機構としての薬理パスウエイ解明を試みてきました。しかしながら、薬物投与の適応症である疾患との相互作用こそが薬理作用そのものであり、真の薬理学的解明であると思われます。そこで、ポストゲノムシークエンス時代である21世紀において、ヒト臨床も疾患モデル生物もゲノム情報が活用可能となり、機能ゲノミクスはシステムバイオロジーとして構築されつつあります。まさに薬理学が当初より設定していたゴールである個別化医療(right drug to right patient at right time by right dose)を達成できることが可能になりつつあります。これらの研究成果として、21世紀の創薬科学(1998年、共立出版)、ゲノム機能研究プロトコール(2000年、羊土社)、先端バイオ研究の進めかた(2001年、羊土社)、ゲノム研究実験ハンドブック(2004年、羊土社)などを、編集出版することで、世界における我が国のゲノム創薬の役割を明らかにしました。そこで2005年から、大学院部局化に伴い、教室名が薬理学から薬理ゲノミクスへ変化しました。

2. システムバイオロジーとケモゲノミクス
2003年4月14日に、国際コンソーシアムによるヒトゲノムシークエンス解読完了が、関係6ヵ国首脳により共同宣言された。真に、国際的にポストゲノムシークエンス時代に突入しました。既にこの時、米国NIHは、ゲノムシークエンス上の機能部位を網羅的に同定するENCODE(Encyclopedia of DNA Elements)計画を、開始している。一方日本では、これに対抗する形で2004年4月から、文部科学省ゲノムネットワークプロジェクトがスタートしました。すなわち、遺伝子やタンパク質の網羅的解析とこれらの包括的相互作用解析から、生命分子ネットワークの体系的な理解へ、展開しようとしています。必然的に「生命現象をシステムとして理解する」システムバイオロジーが、世界中で勃興し、数多くの研究センターなどが欧米を中心に設立されています。具体的には、Institute for System Biology(Seatle,USA), California Institute Quantitative Biomedical Research 3 Center(UC San Francisco, Berkeley, Santa Cruz, USA), Computational and System Biology at MIT(MIT,USA), Broad Institute (Boston,USA)等が代表的なものである。その結果、世界中がシステムバイオロジーを核にした新しい生命科学の構築に集中しているようにみえる。しかしながらここで注目すべき点として、米国では早くも2002年5月からNIH Roadmap for Medical Researchを検討しており、ポストゲノムシークエンス時代の研究プロジェクトとして1)ネットワーク解析、2)構造生物学、3)バイオインフォマティクス、4)ナノメディスンに加え、5)低分子化合物によるケモゲノミクスと分子イメージングプローブ開発に焦点をあて、ヒトゲノムプロジェクトの出口として創薬基盤構築を明確に宣言し急激に展開しているのは、我が国と対照的である。

3. 薬理ゲノミクスのネットワーク解析
そこで、このような国際的動向に呼応して、我々は脳血管障害モデルにおける薬理ゲノミクスネットワーク解析を試みました。20世紀において、我々は分子生物学を基盤に医薬品とその標的分子(薬物受容体)の相互作用について、精密な解析を試みてきました。その結果、薬物作用機構を分子レベルで解明することが可能となり、分子薬理学が構築されてきました。一方、薬理学の最も基本的な問題は、特定の疾患に対する医薬品の作用機序を明らかにすることであります。しかしながら、当時の医薬品標的分子を基点とするパスウエイ解析は、残念ながら疾患遺伝子までたどり着くことが非常に困難な状況でありました。そこで、薬物受容体と疾患遺伝子クラスターとの関係を、直接的に解析することは不可能で、医薬品と疾患の相互作用を直接解明することなく、限られた医学生物学的情報から推定するにとどまっていました。すなわち薬理学の最も基本的課題に対して20世紀は、ついに分子ネットワーク基盤の解明に至らず、幕を閉じました。
21世紀のポストヒトゲノムシークエンス時代に入り、ヒトゲノムに加え、1000種類以上のゲノムシークエンスが完了か進行中であります。その結果ようやくヒトゲノム上のすべての遺伝子にIDがついたことになり、他の種における相同遺伝子が同定され、ゲノム編集などによる直接的機能解析も可能となりました。その中で、薬理学において最も決定的な影響を与えたのは、このゲノム科学を基盤にした薬理ゲノミクスへパラダイムシフトを起こしたことであります。その結果、現時点では不充分ではあるが、薬物受容体から疾患遺伝子クラスターへ繋がるネットワーク解析が成立したことであります。そこで、21世紀になり初めて医薬品と疾患との選択的関係を、ヒトゲノム上に連続したネットワークとして解析する薬理ゲノミクスが成立しました。この薬理ゲノミクスネットワーク解析は、医薬品の疾患に対する選択的作用機構を解明するだけではなく、薬物治療のゲノム的分子ネットワーク実体を描き出します。すなわち、有史以来初めて、治療とは何かという薬理学の根源的問いに対して、分子ネットワーク基盤をもつ解を提案することになる。
そこで、ラット脳血管攣縮モデルにおけるDNAチップ解析から、ラット脳血管攣縮モデルにおける発現変動遺伝子の中に治療遺伝子(H0-1,HSP72等)が含まれていることが明らかとなりました。さらに、脳血管におけるH0-1遺伝子発現を誘導する脳血管障害治療薬を見出しました。そこで、今後はHO-1遺伝子産物と脳血管障害を結ぶ薬理ゲノミクス機構を解析しています。一方、脳血管攣縮時に誘導されるHSP72遺伝子発現をアンチセンスで抑制すると、脳血管攣縮が悪化することを見出しました。さらに、胃潰瘍治療薬であるテプレノン(GGA)が、HSP72を脳血管で発現誘導することを見出し、脳血管攣縮を軽快させることを明らかにしました。これらのプロジェクトは、教室の助教向井淳(現コロンビア大学)、西村有平(現薬理ゲノミクス准教授)、角田宏、大学院生鈴木秀謙(現脳神経外科学教授)、中村智明(循環器・腎臓内科学)、近藤昭信(肝胆膵・移植外科学)、天野誉(麻酔集中治療学)、森川丞二(運動器外科・腫瘍集学治療学)、二階堂洋史(東大脳神経外科学)、伊藤芳幸(皮膚科学)などによりなしとげられました。

4. ポストゲノムシークエンス時代の薬理ゲノミクス
現在、遺伝子多型(SNPs)、トランスクリプトーム(transcriptome)、プロテオーム(proteome)、インターラクトーム(interactome)、メタボローム(metabolome)、セローム(cellome)、フィジオーム(physiome)などの機能オミクス研究を基盤に、これらの薬理ゲノミクスネットワーク解析による医薬品作用機構解明が試みられています。すなわちポストゲノムシークエンス時代は、おもにゲノムシークエンス情報から出発する逆薬理ゲノミクスによる解析が試みられてきましたが、この研究戦略における問題点も、数多く明らかになりつつあります。そこで、今後は機能オミクス情報を基盤とした、21世紀のフォワード薬理ゲノミクス(forward pharmacogenomiscs)と従来からのリバース薬理ゲノミクス(reverse pharmacogenomics)の統合的解析の重要性が指摘されています。これらの統合的研究戦略により初めて臨床医学的に有効性のある薬理ゲノミクスネットワークが成立することが期待されています。これらの研究戦略を実現するために、教室では2003年から経産省などの支援を得て、ゼブラフィッシュ薬理ゲノミクス研究を開始しました。

5. 21世紀の医学研究モデル動物:ゼブラフィッシュ
従来、この薬理ゲノミクスを実現するために、古典的に医学研究で活用されて来た哺乳動物(マウスやラット等)を世界では頻用して来ました。しかしながら、医療の根幹を支える薬理ゲノミクスの実現には、現実的に厳しい困難が存在することを、国際的に気付き始めています。伝統的な哺乳動物による医学研究は、特に多因子疾患である生活習慣病の病態治療解析においてゲノムワイドな遺伝因子に加え、環境因子による機能オミクス解析が不可欠である。この網羅的解析には従来の単一遺伝子疾患研究に比較して、数多くの複合的因子解析が必要となり、研究に必要なモデル動物個体数は必然的に膨大な数となりコストや時間の問題が前面に突出して来ます。一方、動物愛護管理法は、国際的にも強化されつつあり、わが国でも無視できない社会的因子となります。さらに、現時点では難治性疾患として、創薬治療ターゲットが確立していない病態すなわちUnmet Medical Needsは、無数に残されています。これらの新規治療ターゲット探索研究は、現時点の疾患オミクスを基盤にしながらも、ゲノムワイドなスクリーニングが、依然として中心的研究戦略になっています。さらに、ケミカルスクリーニングに必要な化合物の量や数の確保は、実は薬効や安全性の研究において、最も深刻な現実的課題であります。また、疾患モデル動物による新規創薬ターゲットバリデーションにおいて、多くの場合、以下の4条件を満たすことが必要となります。すなわち、1)ヒト疾患と症候学(表現形質)的な類似性、2)ヒト疾患と病態ゲノム機構における類似性、3)病態治療効果におけるヒト疾患との類似性、4)治療ゲノム機構におけるヒト疾患との類似性等である。すなわち病態進展や治療効果の解析において、症候学的相似性を確保するためには、少なくとも脊椎動物であることにより臓器別医学への対応が、不可欠となります。その他、多産性、透明性を活用したin vivo imaging,遺伝子や化合物による介入研究の簡便性など、ゲノム編集(TALEN,CRISPR)における圧倒的優越性のために、現時点で国際的にもゼブラフィッシュが、発生生物学だけではなく、最近10年間は医学研究全般で、活用されつつあります。ヨーロッパでは、2008年から、ゼブラフィッシュがラットを超えて、マウスとともに重要な医学研究モデル生物学となっています。我々はヒト臨床医学上最も重要なアドレナリン受容体システムにおいても驚くべき相似性がゲノム構造、発現プロファイル、機能ゲノミクス等で認められることを明らかにしました。さらに、いくつかの単一遺伝子疾患モデルに加え、数多くのゼブラフィッシュ生活習慣病モデルを構築しています。たとえば、肥満、糖尿病、脂質異常症、心臓弁膜症、心不全、筋萎縮性側索硬化症等でああります。薬理ゲノミクスを、実現するためには、これらの疾患モデルが不可欠であり、出発点であります。すなわち疾患モデルが存在しないと、新規創薬ターゲットバリデーション研究を開始することが出来ません。少なくとも、この研究目的においてゼブラフィッシュは、21世紀に最大限の貢献が期待されているモデル動物と思われます。また、定量的システムズ薬理学やゼブラフィッシュ創薬の基盤構築は、教室の助教島田康人(現オランダライデン大学)、平野稔(現トヨタ中央研究所)、臧黎清(現トランスレーショナル医科学)、大学院生岡岳彦(現株式会社ワールドフュージョン)、王智鵬(京大病院)、梅本紀子(現メーヨークリニック)、張貝貝(現ノルウエーオスロ大学),黒柳淳弥(現株式会社ワールドフュージョン)、川端美湖(臨床麻酔科学)などにより成し遂げられつつあります(写真)。これらの研究成果が、2015年には、日本薬理学会、日本薬学会、日本実験動物学会、日本毒性学会などのシンポジウムで報告され、ゼブラフィッシュ創薬元年となります。一方、現在全国的に我が国の研究医養成が危機にあることから、2013年12月21日三重大学環境情報科学館にて、第二回医学研究学生フォーラム(写真)を開催し、多くの大学から研究学生の参加があり、各大学からMD-PhD研究医養成プログラムの人財育成成果が報告されました。

      

関連リンク

三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクスHP

三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学HP

関連ファイル

現在の三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス教室員

第2回医学研究学生フォーラム