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》僧帽弁閉鎖不全症モデルゼブラフィッシュを用いた新規心不全治療標的遺伝子ECI2の発見

                     
2013/12/06

第23回循環薬理学会

僧帽弁閉鎖不全症モデルゼブラフィッシュを用いた新規心不全治療標的遺伝子ECI2の発見

島田康人1-5、臧黎清1、 有吉美稚子1、梅本紀子1,2、西村有平1-5、田中利男1-5

1 三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野
2 三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学分野
3 三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター
4 三重大学生命科学研究支援センターバイオインフォマティクス部門
5 三重大学新産業創成拠点オミックス医学研究室

現在わが国の心不全患者数は推定約160万人、社会の高齢化に伴い患者数の著しい増加が予想されている。心不全の基礎疾患としては虚血性心疾患、不整脈、心弁膜症、心筋症などがあるが、いずれも最終的には心臓のポンプ機能の低下・消失を誘導し死にいたる。
我々は現在、種々のヒト疾患モデルゼブラフィッシュを構築し、化合物スクリーニングおよび新規創薬ターゲット探索(disease gene hunting)を行っている。本研究では僧帽弁閉鎖不全症モデルゼブラフィッシュを用いて、ヒト心不全治療薬スクリーニングを行った。このモデルの表現型は、房室弁の閉鎖不全と心室から心房への逆流、心拍出量・抹消循環量の低下、容量負荷による心室の著明な拡大である。スクリーニング実験の結果、特にアドレナリンベータ受容体遮断薬carvedilolにより心不全症状および生命予後が改善した。次に、実験個体の心室組織をLaser Capture Microdissectionで回収し、total RNAを抽出、DNAチップを用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、抽出された遺伝子群に対し、in vivoでのノックダウンスクリーニングを実施した。その結果、新規治療標的遺伝子Peroxisomal d3, d2-enoyl-coA isomerase (ECI2)が心機能改善に重要であることを発見したので報告する。
ECI2は不飽和脂肪酸のβ酸化に必要なイソメライゼーションを触媒する補酵素であるが、これまでその病理生理学的役割は不明であった。このECI2をノックダウンした心不全ゼブラフィッシュでは、その心機能は劇的に改善し、抹消循環の回復および生命予後が劇的に改善した。さらにヒト心筋細胞を用いたin vitroの系では、ECI2のノックダウンは細胞内ATP量の増加を認め、これはin vivo(ゼブラフィッシュ)の結果と一致した。以上の結果より、新規心不全治療ターゲットECI2を抑制することにより、心筋のエネルギー産生系の改善を介して、心機能を回復できることを明らかにした。
本研究発表を通して、ゼブラフィッシュスクリーニング、トランスクリプトーム、さらにヒト培養細胞系の3つの次元を用いた新研究戦略が、創薬ターゲットディスカバリーの強力なツールとなることを提案する。